2006年

ーーー12/5ーーー ギルド展を終えて

 ギルド展が終了した。遠方からわざわざ来てくれた人もいて、有り難いことだった。私個人としては、いくつかの品物が売れ、また将来につながりそうな話もあって、良い結果となった。それは別にしても、やはり展示会は有意義なものであると感じた三日間であった。

 毎回見に来てくれる人たちがいる。その中のあるご婦人から、お説教をいただいた。数年前に制作し、展示会に出しても売れ残ったキャビネットを、在庫処分として半値のディスカウント価格をつけた。それを目にとめ、そんなことをしてはダメだ言うのである。

 「この品物に込めた気持ちを思い出しなさい。良いものを作りたいという情熱が溢れていたはずよ。それを捨て売りのようなことをしては、この品物が泣くわ」とのご意見。さらに「いっそのことあなたの奥様にプレゼントすればいいじゃない。あなたの努力の賜物を身近に置いて、生活の中で使うというのは、奥様にとって幸せなことよ。その方がこの品物の有意義な行き先だわ」。そして、「使っていくうちに、奥様の意見を聞いて、必要なところは改良するのよ。そういうことって、楽しいじゃない。主婦の生活感覚って大切だわ。そうすれば、また新しい作品のヒントも生まれるでしょう。」とも。

 ビジネスであるから、割り切りも必要なときがある。お荷物となっている品物を、どうしても売りさばきたいこともある。だからディスカウントが悪いとばかりは言えないと思う。しかし、このご婦人の意見は、私の中の、言わば忘れ去られようとしていた大切なものを、呼び戻した。一つひとつの品物に思いを込めて制作する作家仕事のあるべき姿を、彼女はずばり言い当てたのである。ちなみにそのご婦人とは、数年前のギルド展で知り合いとなった。私の作品を何点かお買い上げ下さったお客様でもある。私は、親身の忠告に従うことにした。

 そんなこともあり、とても有意義ではあったのだが、良いことばかりの展示会ではなかったのも事実。来場者が少なかったというのは、多いに反省すべきことである。回を重ねていくうちに、なんとなく慣れっこになってしまい、手を抜いてしまう部分も出て来る。今回の宣伝不足は、まさにマンネリから来る手抜きであったと思う。初心に立ち返り、出来る限りの努力を注ぐべく、我が身にムチをくれることも必要だ。



ーーー12/12ーーー 冬のイルミネーション

 「国営アルプスあづみの公園」へは自宅から車で15分くらいである。数年前に完成したこの施設に、私は特に興味も無かったので、行ったことはなかった。数日前の地方紙に、この公園で期間限定のイルミネーションが始まったと書いてあった。その数200万個の電球だと。その話を娘にしたら、ぜひとも見てみたいと言った。日曜の夜、家族三人で出掛けた。

 着いたのが7時前。駐車場にはたくさんの車が停まっていた。昼間から居続けた人たちか、それともイルミネーションを目当てに来た人たちか。施設内は、よけなければ通れないほどの人出であった。

 昼間に来たことがないので、暗闇の中、どのようになっているのか分からない。ともかく入り口に当たるガイドセンターに入り、入場券を買う。夜間のみの入場料は280円。ガイドセンターを抜けて戸外に出ると、右の画像のような光景であった。

 イルミネーションはここだけかと思ったら、まだ先があった。それなりに工夫をこらしている。トンネル状の明かりをくぐって展望台のような建物に入る。その先には、階段状の池があるようだ。なにしろ暗いのでよく分からない。その池の輪郭をなぞるようにして、赤い電球の列が図形を描いていた。池に添って、やはり赤く縁取られた遊歩道が降りて行き、末端に小さな建物がある。イルミネーションはそこまでで、その先には暗闇があり、さらにその向こうには安曇野の夜景があった。

 娘はしきりに携帯で写真を撮っている。きっと学友に見せて自慢するつもりだろう。

 家内は「280円でこれだけ楽しめればイイわね」と満足そう。そして「アベックが多いわ。あなたもそのうち彼氏と来るようになるのかしら」と娘に振る。娘は「バスケと勉強で手一杯よ」と、ロマンチックな雰囲気の中でまるで色気がない。

 暗いので、よく注意しないとはぐれてしまう。少し移動するたびにお互いの存在を目で確認する。暗がりに、防寒具で身を固めた家族の姿を追う。そんな行為が、なんとなく滑稽だった。

 帰路、安曇野の西の端を貫く通称山麓線を走る。ある小高い地点を越えると、目の前の斜面が落ちて、安曇平が一望される。夜景が美しかった。車の中で誰となくつぶやいた。「こっちの方が綺麗かもね」。



ーーー12/19ーーー ラフロイグの飲み方

 
酒好きは、酒の飲み方にこだわったりする。日本酒なら冷か、それとも燗か。ウイスキーならストレートかロックか水割りか。焼酎も、水割り、お湯割り、はたまたウーロン茶割りなど、いろいろある。いずれも酒を美味しく飲むためのバリエーションであるが、自分の飲み方をベストと考える排他的傾向があるのも、酒が嗜好品であるせいだろうか。

 シングルモルト・ウイスキーというジャンルの酒がある。それは単一の蒸留所で生産される麦芽(モルト)を使ったウイスキーを、そのまま瓶詰めしたもの。一般的に流通しているブレンデッド・ウイスキー(複数を混ぜたもの)と違って、蔵元の個性が強く出ているものが多い。ウイスキーの本場スコットランドでは、千を越える種類があるとか。

 その飲み方にもいろいろな説がある。ストレートで飲るべきだという人もいるし、等量の水を加えて味わうのが正しいと書いてある本もある。飲み方の違いに目くじらを立てる人もいる。一般人には馴染みの薄いジャンル、言わばマニアックな世界なので、自説にこだわり、他説をけなす傾向が特に強いかも知れない。

 一度問い合わせたことがある。相手はSMWS(Scotch Malt Whiskey Society)、スコットランドにあるモルト・ウイスキーの協会である。メールで次のような内容を送った。

 「私の友人は、ストレートで飲むのが正しいと言います。別の人は等量の水を加えることで味わいが増すと言います。本場スコットランドではどのようにして飲むのが正しいとされていますか?」

 返事が来た。「あなたの好きな飲み方で良いでしょう。モルト・ウイスキーの飲み方にルールはありません」

 なるほど、御本家はおおらかである。楽しめればそれで良いということだ。

 ところで、数多くあるシングル・モルト・ウイスキーの銘柄の中に、ラフロイグ(Laghroaig)というものがある。知る人ぞ知る銘柄で、チャールズ皇太子のお気に入りとの話もある。

 私も好きで、たまに買ってきては飲んでいる。普段買い物に行くショッピングセンターの酒売り場にこれが置いてある。どうしてこんな田舎で売っているのか分からない。ひよっとしたら買うのは私だけかも知れない。

 1年ほど前だろうか、そのラフロイグの美味しい飲み方を発見した。ソーダ水で割るのである。いわゆるハイボール。熟年世代には懐かしい響きの言葉である。

 通に言わせれば邪道かも知れないが、これが実に合うのである。割合は1対1くらいが良いようだ。他のウイスキーも試してみたが、これといった味わいはない。ラフロイグだけは独特の美味しさが引き出される。まさに組み合わせの妙というものであろう。以来、私は自宅の晩酌にこの飲み方を採用している。

 ソーダ水というのがポイントである。夏の暑い日、仕事を終えて食卓に付き、ハイボールを飲み下すときの清涼感は何とも言えない。これを始めてから、晩酌にビールを飲むことがなくなった。それがダイエットにもつながったようだ。

 余談だが、一杯目はラフロイグを飲む。二杯目以降は国産の安いウイスキーに切り替える。これが経済的でよろしい。

 ところで、最近になってまた一つ、このウイスキーの美味しい飲み方を発見した。アイスキャンディーを食べながら飲むのである。バニラ系のものが合うようだ。左手にアイスキャンディー、右手にラフロイグのグラスを持ち、交互に口に入れる。何とも奇妙な光景だが、これがまた実に良い。安いウイスキーでも試してみたが、それではちっとも良くない。やはりラフロイグの個性が光る、組み合わせの妙なのである。



ーー−12/26−ーー ソープ仕上げの椅子

 
安曇野スタイル2006の工房公開のときに、あるご夫婦が椅子を注文して下さった。アームチェアCatのクッション座。ご自宅のテーブルに合わせて木部は黒っぽく着色し、座面の高さは標準より3センチ高くするというオプションであった。そこら辺のことを確認するために、ご自宅に伺った。我が家から30分程度の場所である。

 明るいダイニング・ルームで、コーヒーとケーキをいただきながら、ご夫婦と談笑した。持参した見本帳で、レザーの色はモスグリーンと決まった。黒っぽい木部にマッチさせるためである。それは別として、オレンジがかった黄色も素敵だろうと奥様が言われた。奥様はプロ顔負けの画家である。

 注文の品と平行して、同じ形のものをもう一脚制作した。こちらの方は黄橙のレザーにした。黒く塗った椅子に、色違いの二つのクッションを交互に置いて感じを見た。それぞれに良い雰囲気だった。画家女史の指摘は正しかったようだ(画像はこちら)。

 黄橙のレザーの椅子の木部は、さんざん迷った挙げ句、ソープ仕上げ(→参照)にした。天然石けんを湯に溶いて塗って乾かすだけの簡単な仕上げである。オイル仕上げのような「濡れ色」にならず、木肌そのままの状態となる(右の写真)。サラっとした手触りがすごく自然な感触だ。

 この白っぽい椅子に、黄橙のレザーがまた良く合う。なんだか不思議な魅力を持つ椅子となった。これを自宅で使って、ソープ仕上げの成り行きを確認したいと思った。家内に提案したらOKが出た。居室に置いて、使い始めた。私だけでなく娘も使う。彼女は15万8千円の椅子に座って、宿題をする。





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